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東京地方裁判所 昭和57年(特わ)1894号 判決

裁判所書記官

安井博

(一)

本店所在地 東京都三鷹市新川四丁目七番一四号

鳥居工業株式会社

(右代表者代表取締役成田治)

(二)

本籍 青森県北津軽郡鶴田町大字胡桃舘字前田一七番地

住居

東京都三鷹市中原三丁目六番二五号

会社役員

成田治

昭和五年三月二九日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官神宮寿雄出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

1  被告人鳥居工業株式会社を罰金九〇〇万円に、被告人成田治を懲役八月にそれぞれ処する。

2  被告人成田治に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人鳥居工業株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都三鷹市新川四丁目七番一四号に本店を置き、合成樹脂又は金属ネームプレート製造販売等を目的とする資本金二〇〇万円の株式会社であり、被告人成田治は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人成田治は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入を計上する等の方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五三年三月一日から同五四年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六、一八五万一、七九四円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、確定申告書提出期限内である同年五月三一日、同市吉祥寺本町三丁目二七番一号所在の所轄武蔵野税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三、八九八万五、五八八円でこれに対する法人税額が一、三八〇万六、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第一〇六八号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二、二九四万五、二〇〇円と右申告税額との差額九一三万八、五〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ、

第二  昭和五四年三月一日から同五五年二月二九日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二、四一〇万八、一一八円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、確定申告書提出期限の延長処分による申告書提出期限内である同年五月三一日、前記武蔵野税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六、〇一九万六、〇二二円でこれに対する法人税額が二、二二六万五、二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額四、七八二万四〇〇円と右申告税額との差額二、五五五万五、二〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全般につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  東京法務局武蔵野出張所登記官作成の登記簿謄本

判示第一、第二の事実ことに過少申告の事実及び別紙(一)、(二)修正損益計算書の公表金額につき

一  押収してある昭和五四年二月期及び同五五年二月期法人税の確定申告書二綴(昭和五七年押第一〇六八号の1、2)

判示第一、第二の事実ことに別紙(一)、(二)修正損益計算書中の各当期増減金額欄記載の内容につき

一  収税官吏作成の架空仕入及び過大仕入各調査書(別紙(一)、(二)修正損益計算書の勘定科目中各〈3〉、以下調査書はいずれも収税官吏が作成したものである。)

一  期末商品等棚卸高調査書(右同(二)の〈5〉)

一  福利厚生費調査書(右同(一)、(二)の各〈7〉)

一  福利厚生費(架空分)調査書(右同(二)の〈7〉)

一  交際費調査書(右同(一)、(二)の各〈8〉)

一  通信交通費調査書(右同(一)、(二)の各〈9〉)

一  広告宣伝費調査書(右同(一)の〈10〉)

一  倉庫料調査書(右同(二)の〈27〉)

一  受取利息調査書(右同(一)の〈24〉及び(二)の〈28〉)

一  価格変動準備金調査書(右同(一)の〈29〉及び(二)の〈33〉、〈34〉)

一  特別償却費調査書(右同(一)の〈30〉及び(二)の〈36〉)

一  交際費損金不算入額調査書(右同(一)の〈35〉及び(二)の〈41〉)

一  減価償却超過額の当期認容額調査書(右同(二)の〈45〉)

一  事業税調査書(右同(一)の〈40〉及び(二)の〈44〉)

一  武蔵野税務署長作成の証明書(右同(一)の〈29〉、〈30〉及び(二)の〈33〉、〈34〉、〈36〉、〈45〉)

(法令の適用)

一、罰条

1  被告会社

いずれも昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条

2  被告人成田

いずれも行為時において右改正前の法人税法一五九条、裁判時において改正後の法人税法一五九条(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による)

二、刑種の選択

被告人成田の各罪につき各懲役刑選択

三、併合罪の処理

1  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人成田

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い第二の罪の刑に法定の加重)

四、刑の執行猶予

被告人成田につき刑法二五条一項

(量刑の理由)

被告会社は自動車に貼布する合成樹脂又は金属製のシール及びステッカーを製造販売する会社であって、代表取締役である被告人成田が自ら仕入、在庫管理等を行ういわゆるワンマン会社であるが、本件は、判示のとおり、同被告人が右被告会社の業務に関し二事業年度で合計三、四〇〇万円余の法人税を免れたというものである。ところで、被告人成田は、本件事業年度前の昭和五一年ころ被告会社が外注に出していた印刷業務を担当させる会社を作りこれを実弟に経営させようと考えその資金約三億円を捻出する目的で脱税を始め、その後昭和五四年ころ同被告人の体重が原因不明のまま減少し癌ではないかと疑いをもつようになったことから、妻子が将来困らないだけの財産を残してやろうと考えて脱税を続けたというのであるが、もとより資産の蓄積は正当な方法によって行うべきであって、これらは本件脱税行為を正当化する理由にはならないものであり、ましてや右のようにして脱税した被告会社の簿外資産を被告人成田の家族の生活費やその自宅の建築資金等に使用したことは会社を私物化するものというほかなく、同被告人の責任は軽視できないものがある。また、本件ほ脱所得の主なものは架空仕入、仕入の繰上げ計上、期末たな卸商品の除外等によるものであるが、その方法についてみると、被告人成田は架空仕入に際し、業界紙で知った倒産会社のゴム印、代表者印をあらかじめ勝手に造っておき、逐一把握していた被告会社の収支の状況をみながら周囲からの疑惑を避けるため、一定の利益の範囲内に収まるようにして架空仕入の事実を仮装した納品書、請求書、領収書等を作成し、これを被告会社の経理担当者に提出して仕入帳に記帳させたうえ、仕入代金の支払として被告会社振出の小切手又は約束手形の交付を受け、小切手については支払銀行で現金化し、約束手形については架空名義の預金口座を通して取り立て簿外預金とし、また値上げに備えて大量に購入した原材料を被告人成田個人の名義で倉庫業者に預けていたことに目をつけ、これを期末たな卸商品から除外するなどしており、その手段、方法は巧妙かつ計画的であって、被告会社において青色申告の承認を受けていたこと等を併せ考えると、被告人らの刑事責任は軽視することができない。

しかしながら、他方、本件起訴にかかるほ脱額は前記の程度であって、ほ脱率も三九・八パーセントあるいは五三・四パーセントとこの種事犯としては比較的低いこと、被告人成田は本件につき捜査段階から犯行をすべて自供し、当公判廷においても再び犯行に及ばない旨誓約するなど顕著な改悛の情を示していること、被告会社において、本件を含む五事業年度分につき修正申告をしたうえ、ほ脱所得に対する本税、重加算税等の国税、及び地方税を完納していること、被告人らには今まで前科前歴が全くないことなど斟酌すべき事情も認められるので、これらの情状をも総合勘案のうえ主文のとおり量刑した(求刑被告会社につき罰金一、二〇〇万円、被告人成田につき懲役八月)。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 羽渕清司 裁判官 園部秀穗)

別紙(一) 修正損益計算書

鳥居工業株式会社

自 昭和53年3月1日

至 昭和54年2月28日

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

鳥居工業株式会社

自 昭和54年3月1日

至 昭和55年2月29日

〈省略〉

〈省略〉

別紙(三) 税額計算書

鳥居工業株式会社

〈省略〉

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